十蘭「我が家の楽園」

久生十蘭「我が家の楽園」。昭和28年の作品。主人公の石田氏は下級公務員。養父から受け継いだ屋敷は広大で維持していくだけで精一杯。そんな中敗戦に際し、その屋敷が進駐軍に接収される。これで周りに対する面子を潰さずに屋敷を手放せ、おまけに進駐軍から家賃まで入ってくる。それで世間から同情を浴びつつ気楽なバラック暮らし。
しかし終戦後7年を経て住居が返還される。しかもその住居はそこで暮らしていた進駐軍によって無茶苦茶に改装されていた。おまけに胡散臭い奴らがわらわら群がってきて・・・。といった一家族にふりかかる悲喜こもごもを描いた喜劇で、十蘭の多才さを表している作品。
石田氏は公務員ではあるのだが、早期優遇退職(一種のリストラ)で職を辞している。しかしそれを家族に言い出せないで、毎日出勤しているふりをして朝から夕まで時間を潰している。しかも割り増しでもらった退職金は金策のつもりで行った競輪ですべて紙屑へと変貌を遂げているという有様。
何十年経っても変らない人間の姿がここにあると言っては言い過ぎだろうか。