Buried Alive

乱歩の随筆集「悪人志願」のなかに、「吸血鬼」というエッセイがある。さて、吸血鬼に対しての関心というと、「吸血」という行為やその不死性などが来るのが一般的ではないかと思う。しかし乱歩という人にとってはまずなにより「生きながら葬られてしまった」人物という連想が働くらしい。推理小説の理知性を強調する人らしいといえばいえるが、この随筆では吸血行為にはほとんど触れず、

 死ぬことは恐ろしい。だが、生きながら、死人と見なされ、葬られることは、幾倍も恐ろしい。私はヴァンパイヤの伝説を思い出す毎に、このえたいの知れぬ恐怖に戦かないではいられぬのだ

と結ばれる。
乱歩には「吸血鬼」というこの随筆と同名の長編があるが、この作品に出てくる怪人「吸血鬼」もやはり被害者の血を吸ったり(またそのように見せかけたり)するわけではなく、確か外見上の類似かなんかが理由でそう呼ばれていたように記憶している。
乱歩という人はこの「生きながらの埋葬」というモチーフが大好き(?)だったらしく、「白髪鬼」のリライトなどからもそのことはうかがい知れる。
初期の代表作のひとつ、「お勢登場」という短編もそのカテゴリーに入れられる作品である。お勢という悪女が不義の相手と結ばれたいがために自分の夫を見殺しにする話なのだが、そのなかで長持というものが重要な役割を果たす(長持についてはhttp://www.fuchu.or.jp/~kagu/museum/mingu/nagamochi.htmが解りやすいかと)。お勢の夫の格太郎は妻の留守中に自分の子供やその友達達とかくれんぼをして遊んでいた。ふとした思い付きで長持に隠れたのだが、その際掛け金がかかってしまい出られなくなる。帰宅したお勢は偶然誰よりも先に、長持に入っている格太郎を発見し、助けようとする。しかし長持を空けようとした瞬間ふと魔がさしてそのまま再度閉めてしまう。結局数時間後、格太郎は長持のなかで死亡しているのをお勢によって"発見"される。その長持の蓋の裏には格太郎が作ったと思われる掻き傷が多数刻まれていた。そしてその中に「オセイ」という文字も。一種のダイイングメッセージだが、これを見たときのお勢が周囲に対して漏らす言葉が素晴らしい。

「まあ、それ程私のことを心配していて下すったのでしょうか。」

思わず惚れてしまいそうである。
この作品私の同居人も非常に好きで、その上長持のようなもの(大きいトランクとか)を妙に欲しがるのである。私は田舎の貧乏な家の生まれで家には古い物が結構あったので、古い家具などを見て良いと思う感性は十分理解できるのではあるが、「お勢登場」大好きな同居人から
「長持、いいよね。欲しいよね」
などと言われると素直に「ああ、いいよねえ」とは言いかねるのである。
下手すると入れられてしまいかねないからな。
ドラえもん見て押入れで寝てみたくなったり、吸血鬼好きで棺おけで寝てみたくなったりする人間もいるから、逆に自分がその中に入って寝起きしたいと思っているという可能性もかなりあるのだが、それはそれであれだから確認はしていない。