浅草寺

浅草にある浅草寺。何度か立ち寄っているのだが、いずれも旅行の帰りとかなので落ち着いて見て回ったのは今回が初めて。
雷門、五重塔などといったメジャーなものも当然良いのだが、個人的には本堂の脇の六角堂が調和のとれた良い恰好をしていて気に入っている。
本日の目当ては半七塚。捕物帖の元祖岡本綺堂の「半七捕物帖」の主人公を記念した塚である。ここには塚と共に(半七には直接関係しないが)綺堂の小説に関係する動物(?)の像がある。

おわかりであろうか、そう蛙である。ただの蛙ではない。良く見ていただければ直ぐ解るのだが、後ろ足が一本しかないのである。後ろ足がまるで尻尾のように生えているところから壊れたりしてこうなったのではなく、初めから意図して作られていることがわかる。
これは綺堂の傑作連作短篇である「青蛙堂鬼談」に出てくる青蛙神の像なのである。

梅沢君は四五年前に、支那から帰った人のみやげとして広東製の竹細工を貰った。それは日本ではとても見られないような巨大な竹の根をくりぬいて、一匹の大きいがまをこしらえてものであるが、そのがまは鼎のような三本足であった。一本の足はあやまって折れたのではない、初めから三本の足であるべく作られたものに相違ないので、梅沢君も不思議に思った。くれた人にもその訳はわからなかった。いずれにしても面白いものだというので、梅沢君はそのがまを座敷の床の間に這わせておくと、ある支那通の人が教えてくれた。
「それは普通のがまではない。青蛙というものだ」
その人は清の阮葵生の書いた「茶余客話」という書物を持って来て、梅沢君に説明して聞かせた。
それにはこういうことが漢文で書いてあった。
――杭州に金華将軍なるものあり。けだし青蛙の二字の訛りにして、その物はきわめて蛙に類す。ただ三足なるのみ。そのあらわるるは、多く夏秋の交にあり。降るところの家はじゅっ酒一盂を以てし、その一方を欠いてこれを祀る。その物その傍らに盤踞して飲み啖わず、しかもその皮膚はおのずから青より黄となり、さらに赤となる。祀るものは将軍すでに酔えりといい、それを盤にのせて湧金門外の金華太侯の廟内に送れば、たちまちにその姿を見うしなう。而して、その家は数日の中に必ず獲るところあり。云々――

それを知り、梅沢は自らを青蛙堂主人と号すのである。この短編集にはその青蛙堂で語られる怪異譚が納められている。大傑作です。
それはさておき知らない人にはなぜあるのかいまいち解らない蛙の像で、知っている人には感動もんというこの凝った像。後ろ足は背後に回ってみないとわからないというのは、狙ったわけではないだろうがマニアックだ。