殺人狂時代(1967)

HRS-21012007-01-23

岡本喜八監督の「殺人狂時代」を見る(当然ですがチャップリンの同名映画とは無関係)。
都筑道夫の傑作娯楽アクション小説「なめくじに聞いてみろ」を原作としていて、私は原作の大ファン。ちなみに原作のタイトルは雑誌掲載時が今と同じ「なめくじに聞いてみろ」で、最初に単行本になったときに「飢えた遺産」に改題。出版社を変えて再単行本化した際に再び「なめくじ〜」に戻ったという経緯があり、映画内のクレジットでは原作は(映画が作られた当時のタイトルである)「飢えた遺産」となっている。
主人公の桔梗役は仲代達也。野暮ったくて原作のイメージとは違うなあという感じだが、岡本監督が「主人公を原作よりもっとカッコ悪く」したかったということなので意識されたものらしい(「なめくじ〜」の解説より)。ただこれはこれで良い味をだしていて原作とは別のカッコ良さがある。仲代達也は良い感じにすっとぼけていて、同じ都筑道夫キャラクターの物部太郎なんかをやらせたら意外にはまるのではないかと思った。
映画は登場人物の名前こそ一緒のものの、キャラ設定やストーリーは全くの別物。ただ流石だなと思ったのは原作の最も重要な部分、オカシナ道具を使った殺し屋との対決に関してはしっかりと押さえているところ。漫画チックといっても良いような奇抜なアイテムを使用するところが肝であるというのをちゃんと分かってアレンジしている。まあ、映画ということで大砲とか爆弾使うシーンがあるのもご愛嬌。
表面的には別物でありつつも、大事なエッセンスをしっかりと取り込んでいるために、原作とは違うけれど、原作が好きな人なら十分楽しめるという不思議な関係を原作と築いている映画だと思う。いやあ、面白かった。
最後に、この映画確実に原作を凌駕した部分が一つある。それは敵役の溝呂木博士の造詣。もっと正確にいうと溝呂木を演じている天本英世の存在感。尋常じゃなく恰好いいのである。精神病院を営みつつ、見込みのある患者に殺し屋としての訓練を施す。長身に黒手袋、慇懃な態度とイカレタ目の相乗効果がもたらす恐ろしいまでのインパクト。「世の中を動かすのは狂人」、「人生最大の快楽は殺人」とうそぶくその姿はまさに怪人。死神博士すら知らない世代の私にとって天本は平成教育委員会に出ていたお爺さんという印象が強いのだが、こんな凄い人だったとは・・・。正直これだけでも一見の価値ありです。