三津田信三「禍家」

怖いながらも楽しいマガヤ?
三津田信三「禍家」読了。かなり面白かった。
光文社文庫の次回発行予定を最初見たときは「ホラー作家の棲む家」の文庫落ちかと思った。すぐ脇に「文庫書き下ろし」って書いてあったけど。
というわけで著者2作目の館もの。「ホラー作家〜」と世界観を共有し、前者に出てきた館への言及もちょっとある。といっても作風はかなり違うけど。
この「作風が違う」というのがポイント。今まで講談社ノベルからでていた現代を舞台にしたシリーズ(=刀城もの以外)と一線をかくしている。まどろっこしい自己言及性とか無闇におどろおどろしい雰囲気が大分薄められている。今までの作品が駄目という人でも安心して読める。最もそういう人は次何を読むかということになると刀城シリーズくらいしか無いんだけど・・・。んで、私のようにこの人の作品では「作者不詳」が一番好きという人間にはどうかというと、正直ちょっとだけ、本当にちょっと「もっと三津田を、三津田分が足りない・・・」とは思った。思ったが作品の出来が良いので不満レベルにまで高まることは無かった。
ジャンルとしてはホラー+ミステリ。ホラー要素とミステリ要素の配分が結構絶妙。基調はホラーだが、結構巧妙にラストに向けて伏線を張っている。
両親を事故でなくした少年が祖母とともに引っ越してきた家。どうも以前に来たことがあるような気がする。しかし祖母に聞いても軽く否定されるだけ。それだけなら良くある気のせいですんだのだが・・・。少年を知っているらしい不気味な老人、家の中で次々とおこる怪異。それらを目にした少年は自分とこの家との関係、過去にこの家で何が起こったのかを探ろうとする。
先に作風が今までと違うと述べたがそのキーとなっているのが主人公の少年と、協力者となる少女のキャラクター。少年は以前両親が事故死した際、無意識にではあるが「死」のそばまで接近している。そこを祖母に引っ張りあげられた経験があり、ある意味で耐性がついたのか、絶望しない。最後の最後まであがく。やれることがあるならば全てやる。彼の話す異常な話を信じ、力になろうとする少女の明るい性格を合わせると、いささか気味の悪いエンディングも「でもまあ何とかするんじゃねえ、こいつらなら」という気にさせられる。
怪異の正体というか意味するところが判明するあたりは個人的には橘外男の名作「逗子物語」を想起させられるところがあった。このあたりはうまいなあと思ったが、不気味な爺さんの設定は個人的にはどうかと。キーマンではあるのだが、登場時のインパクトがありすぎたせいかその後がいささか。
大変に満足ですがまたメタでアクの強いミステリも読みたいような。旧作の文庫化希望。