ワイルド「検死審問」

有名作家の開いたホームパーティでの変死事件。その死因を巡っての審理が中心となっている。
話は目撃者、関係者の証言で構成され、幕間的に陪審員たちの会話が挿入される。
証言者たちは当然自分の主観に基づいて証言を行う。いわゆる「信頼できない語り手」である。ミステリはその性質上、この手法を用いた良作が多い。
複数の人間が同じ対象について自分の印象や考えを述べれば当然、食い違いがでてくる。この手の小説をその食い違いをどう使うかも見どころの一つとなるのだが、この作品の面白いところはその食い違いが非常に少ないところにある。
証言者の意見は大体にして一致しているのである(つまり一見すると謎は残されていない)。それでいて、個々の証言の中には当然ながら重大なヒントが隠されている。
この「ほとんど自明」というシチュエーションも「あっと驚く真相」の前振りというだけではなく、最後までストーリーの中で巧妙に利用されている。
良くも悪くも無駄がない。