三津田信三「十三の呪」

文庫書き下ろしの新刊。どうやらシリーズものにするらしい。怪異と人為的な犯罪が混ざり合うのはこの作者の特徴のひとつだが、話の始めから怪異の存在が明確に示されているのは珍しい。
「死相」を見ることができるという特異な能力を持つ一種の心霊探偵ものだが、主人公は開業して間もないため、探偵としての実績はない。そのうえ、コミュニケーションの面で問題あり。まあ、新本格以降を見てもそんな探偵はざらにいるのだが、この主人公のうりは「頭脳」ではないわけで、変人探偵の諸兄とは違い、なかなか苦労している。
また、「死相」が見えるといっても、その理由、時期など具体的な情報は解らない。文字通り、「死相」が見えるだけなのである。今後、そんな微妙に制約の多い能力をどのように話に絡めていくのかという興味を覚えた時点で、とりあえず次作も購入決定。
ホラー的にもミステリ的にもこの人にしては抑えめで、過剰さはなし。いささかさびしい気もするが、その分初めの一冊には良いかもしれない(薄いとはいえ、謎ときの要素はしっかり入っているし)。
7月にはついに「ホラー作家の棲む家」の文庫が出るので、三津田分の補給はそっちのほうで(ノベルは借りて読んだので持ってない)。