甲賀三郎「緑色の犯罪」

戦前のミステリ界の大物甲賀三郎の短編集。論創社のが図書館になかったのでちょっと古い国書のこちらを借りて来る。
甲賀三郎は日本における犯罪実録ミステリの先駆け、「支倉事件」と短編数本読んだのみ。ぶっちゃけ創元文庫のアンソロジーです。
彼については乱歩が随筆でたびたび言及している。
何でも、作家デビュー前に技術者の集まりである工人倶楽部という会で面識があり、デビュー後実際に会ってみてびっくりしたそうである(乱歩も甲賀三郎ペンネームだし)。
そしてかの有名な木々高太郎との論争。甲賀三郎は本格推理小説をこそ目指すべしという立場に立っていた。
乱歩もその怪奇、残酷趣味について苦言を言われたこともあると回想している(「毒舌」とも形容している)。
さてその作品だが、「本格」を目指している人間の作品が必ずしもその理想に追い付いているとは限らないのは当たり前の話。
仰々しい飾り付けがない分、シンプルでそれをどうとらえるかは好みの問題かと。
怪奇志向の強い私にはいささか物足りないとも思わないでもない。
事件をしっかり解決しつつも、犯人や依頼人からこっそりうわまえを撥ねる弁護士手塚龍太のキャラクターはなかなか。