フリーマン「ポッターマック氏の失策」

フリーマンのソーンダイクものの長編。
ソーンダイク譚は短編しか読んだことが無い。
結論からいうと、結構面白かった。論創社のこのシリーズ、良作が多い気がする。
フリーマンというと、倒叙法ミステリの創始者として有名。
倒叙法というと、何じゃらほい?だが、一言でいうと「刑事コロンボ」方式。倒叙法という名称は知らなくても技法そのものは馴染み深いはず。
謎の回答の一部(犯人とか)を最初に明示して、それを探偵役が解明していくのを描く方式。
ある意味で時系列で物語がすすむので、そういう意味では「倒叙」じゃないかも。
「相棒」などでもこの手のエピソード(バーテンさんの話とか印象に残ってる)があり、テレビ的にも結構ポピュラーな技法。
この長編も倒叙法が採用されている。ただ、解説によると、フリーマンの長編で倒叙ミステリなのは2つしかないらしい。
冒頭、脱獄の場面から始まる。脱獄者の安否についてはあいまいなまま、プロローグは終わり、舞台はイギリスの片田舎に移る。
そこに住むポッターマックという紳士が冒頭の脱獄者であること、彼が脅迫を受けいていることが作中でほのめかされる。
そして脅迫者との対峙の中で、彼が冤罪だったこと、彼を陥れたのは当時友人として信用していた脅迫者だったことが語られる。このあたりも含め、人物設定はなんとなく「モンテ・クリスト伯」を想起させる。
このあとの殺害、隠蔽なども含め、視点は基本ポッターマック氏側で進む。探偵役のソーンダイク博士の行動は基本的にポッターマックサイドで明かされた事実の補強をするように展開する。この2点はラストをある程度納得できるものにするために重要な働きをしている。
幾度か躓きそうになるものの、一応隠蔽工作はうまくいき、脅迫者は失踪者として当初は話題になるものの、この件とポッターマック氏を結びつけて考えるような人物は彼の前に現れることはなく、これから平穏な生活が遅れそうだった矢先予想していなかった事実が発覚する。その事実のため、ポッターマック氏は自らこの失踪事件を蒸し返さざるを得なくなる。そして彼のとった工作に対して黙認を決め込んでいたソーンダイク博士も動かざるを得なくなる。このあたりの展開がクラシカルで個人的には気に入っている。
今からすると独創的、目新しい点はない代わりに、二転三転する展開と良くできた構成など手堅く楽しめる。古典ミステリを楽しみたい人は是非。