ホーソーン「わが旧牧師館への小径」

ナサニエル・ホーソーン(1804-64)はアメリカ文学の小説における最初期の文豪である。代表作の「緋文字」は、ほぼ同時期のメルヴィルの「白鯨」、ちょっと後のオルコット(娘のほう)の「若草物語」、もっと後のトウェインなどと並んで、本屋にいけば普通に文庫が置いてある数少ない19世紀アメリカ小説でもある。
とはいっても話を文庫に限ると、「緋文字」以外だと短編集が岩波から出ているだけで、それ以外を読もうとすると高いハードカバーか原著にあたるしかないという状況なのだが。しかもその短編集は一応日本語で書かれているのだが、読みにくいことこのうえない代物。ある日理由無く突然失踪する男のはなし「ウェイクフィールド」、ベールで決して素顔を見せない牧師を描いた「牧師の黒いベール」など非常に興味深い話が満載なのにもったいないことである。強く新訳を望む。
んでこの平凡社ライブラリーの「わが旧牧師館の小径」。背表紙の解説によると、

エマソン、ソローなどの回想とともに、ボストン郊外コンコードの自然、四季、生活を綴った珠玉のネイチャーライティング

だそうで。
正直こんなのあったんだという感じなのだが、まえがきを読んで納得。これは短編集「旧牧師館の苔」の序文として書かれたものだとか。
さてその内訳はというと、本文50ページ、解説60ページで定価800円。コストパフォーマンスは正直悪いとしかいいようがない。倍以上の値段になっても短編集の全訳のほうが個人的には嬉しかった・・・。内容は確かに小説やスケッチとも違って興味深いものではあるのだが、ソローやエマソンに触れた部分はそう多くないので(といっても全体の分量自体が少ないのだが)誇大広告ではと。
で、本文より長い解説だが、ホーソーンの生涯だけでなく、彼の時代に至る文学史をシンプルに解りやすくまとめてあって、その点では良い解説だなと思うのだが、これわざわざ手にとって読む人がどういう種類の人間かと考えるとなんかなあと。
訳は凄く読みやすい。解説もわかりやすい。でもなんだろう、全体としてみると非常に中途半端(ただし値段は除く。これは高い)。ホーソーンを知らない人に勧められるかというと、やはりためらわれる。とにかく自然が描かれていれば何でもオッケーという不思議な人か、日本語化されたホーソーンの著作はコンプリートしないと気がすまないという人向けか(後者には解説いらないだろうしなあ)。いるんかね、そんな人。
ちなみに私が「緋文字」を知ったきっかけは講義でも、映画でもなく、高校の時読んだエラリー・クイーンの同名のミステリだったりする。