電送人間(1960)

東宝の「○○人間」ものの第一作。次作にあたるガス人間が不思議な味わいの快作だったので遡ってこちらも見てみた。さてこちらの電送人間、ガス人間と違い改造人間なわけではない。物質を空間移動させることが出来る電送機を使用して神出鬼没、一見不可能と見える犯罪を演出するから電送人間。余談だが、作中での電送機の原理の説明は「チョコレート工場」でのチョコの電送機の説明と酷似(例としてテレビを使用するなど)しているのが興味深かった。電送人間は電送機を利用してかつて自分を亡き者にしようとした軍時代の上官、同僚達を殺害していく。いわばオーソドックスな復讐譚である。それを作品の主人公である記者とその友人の刑事の視点から追っていく。怪人の純愛というある意味で冒険的な主題を描いたガス人間とちがい、シンプルなSFミステリになっている。手堅く纏まっている分爆発力は薄いといった感じ。
しかしこの電送機、相手の意表をつくようにうまく使って、なおかつ足のつかないようにするには結構不便なのである。まずでかい。そしてペアで使用する必要がある(送信側と受信側)。つまり片方を目的地の近くに事前に運んで隠しておく必要がある。そして使用後は周囲に調査が入って見つかる前にそれを始末する必要がある。このあたりの苦労をちゃんと描いてあるあたり好感が持てる。
しかしこの映画、見た人間に印象や一番覚えていることを聞いたなら、上記のストーリーとか特撮とかではなく、10人が10人ともこう答えるだろう。「軍国キャバレーDAIHONEI」と。
そのキャバレーは電送人間のターゲットの一人が経営しており(「元スパイの三国人」と表現されている。そんな人がこんなもん経営しているという設定は今じゃ無理だな)、主人公と友人の刑事は客を装って張り込んでいる。どんな店かというと男は軍服、女はセーラーのカッコをしており軍隊を思わせる単語で会話する。酒の名前は「焼夷弾」で、新しい酒を頼むと「ミサイル二丁」という具合に注文を行い、取りにいく際には「輸送して参ります」とくる。無口で酒もあまり飲まない主人公は、店の女性から「こちらホント模範兵ね」とからかわれる。いつの時代もこういうものはあるんですな。