岡本綺堂「柳原堤の女」

綺堂は自身の随筆で若い頃円朝の怪談を聞いた経験を、なめてかかって見に行ってみたらえらいこと怖かったと回想している。
そんな彼自身も(分野は演劇と小説ではあるが)怪談の名手であり、「青蛙堂奇譚」をはじめとして名作が多い。といっても綺堂といえば第一にあがるのは日本の捕物帖(というか謎解き小説全般の)元祖である「半七」であろう。
半七捕物帖にも一見幽霊や妖怪の仕業に見せかけた事件がいくつかあるが、個人的には「柳原堤の女」(光文社文庫4巻)が気に入っている。
柳原堤に夕暮れに現れるという女。その正体を確かめようとした男たちが怪異と思われるものにあい逃げ帰ってきたことから騒ぎが大きくなっていく。そのあたりのくだりも結構面白いのだが、最終的には半七によって謎は合理的に解決する。解決するのだが、本筋には大きく絡まない枝葉な部分での謎が一つ謎のまま残される。その内容と語り口のさじかげんがうまい。物語にいい感じで余韻を持たせている。