パーシヴァル・ワイルドその1

創元社から「検死審問」が出たので、その予習用にパーシヴァル・ワイルドの既訳作品2作を読んでみた。どちらもユニークな設定と適度なユーモアが楽しい良作だった。
「探偵術教えます」は1940年代に書かれた著者最晩年の作品。田舎町に住むモーランという青年を主人公とした連作短編。このモーラン君はあるお屋敷の運転手をしているのだが、探偵にあこがれており探偵の通信教育を受けている。あこがれてはいるものの映画や小説にどっぷりつかっているという訳ではない(むしろ小説は全然知らない)。そのため彼の見当違いの行動というのはドン・キホーテ的な信念から来るのではなく、彼個人がちょっとアレな人であることに起因する。
全編彼と通信教育の教官との電報や手紙で構成される。いわゆる書簡態である。書簡態は小説の形式としては最も古いものの一つだが、自由度が低いというか、うまく利用しないと不自然さがでてしまう形式でもある。実際すたれてるし。この作品は通信のタイムラグを利用したり結構うまくやっている。ラストもこの形式ならではという感じで見事。個人的には主人公がうっとおしかったが。