セイバーヘーゲン「バーサーカー 赤方偏移の仮面」

HRS-21012008-11-12

はるか昔に、命有るものすべてを破壊するようにプログラムされたロボット集団バーサーカー
その製造者が滅びた後も、生命破壊を目的として長い間、長い距離を航海してきた。
それが折悪く宇宙に進出した地球人たちと遭遇してしまい、戦いを繰り広げることになる。
よく考えると迷惑な話ではある。誰も得をしない。
しかもこのバーサーカーたち、良くある目的発見→攻撃というな脊髄反射ロボットではなく、知能があり必要とあれば策略も用いる。ある人間を生かしておくことが長期的に見て人類に害になると判断したなら、殺さず生かして有効利用する。
この作品はバーサーカーシリーズの一作目で短編集となっている。一部連作短編と単発短編の合集となっている。
人間とバーサーカーとの間の心理戦がメインの「無思考ゲーム」や「和平使節」、スペースオペラ色の強い「宇宙の岩場」などがシリーズの特徴をよくあらわしていて主流という感じがした。
それらも面白かったのだが、一番気に入ったのは異色作というか、短編集を通して亜流的な「理解者」と「道化師」。
「理解者」の厭世的な画家とバーサーカーの対話と、それがもたらした結末、及びラストの画家の科白。会話メインの短い話だけれど印象は深い。
そして「道化師」。「理解者」では芸術に焦点があたっていたが、こちらはタイトルから分る通り、笑いがメインテーマ。シリアスなトーンの作品が多い中、これだけは完全なコメディ。
その活動故に故郷の星を追われたコメディアンがバーサーカーと遭遇する。しかしそのバーサーカーは自己修復の過程で少々おかしくなっていた。生命と戦う最良の方法は「笑い」だというコメディアンの主張に丸め込まれたバーサーカーたちは彼から「笑い」を生み出す方法を学ぶ。
そしてコメディアンはバーサーカーを率いて、故郷の星に凱旋し、吉本新喜劇ばりのお笑いを披露する。
こちらも落ちが非常に秀逸。馬鹿みたいです(褒め言葉)。とはいえ、この伝統的なばか騒ぎは教育的によろしくないせいか、最近あまり見ない気がする。意味が通じなくなる世代とかも出て来るのかと思うと少々さびしい。
しかし加藤直之による表紙は格好いいね。このバーサーカーのデザインはあさりよしとおの「カールビンソン」のパーカー、ゆうきまさみ「究極超人あーる」のバーサーカーの元ネタ。
両作品とも小学生のころから読んでるのに、デザインの共通性にはずっと気が付かなかった。元ネタがあるって知らなかったら今でも気付かなかったかも。小学生には解らんよ。