フォークナー「サートリス」

フォークナーの3作目にして、ヨクナパトゥファサーガの一作目。
フラッシュバックや意識の流れ、時系列をあえてごちゃごちゃにした構成などは一切なく、初めからラストまで時間の流れは線的である。
登場人物もサートリス家とその周辺に限られ話は全体的にわかりやすい。このあたりは初期作品ゆえか。
(最も同年には次作「響きと怒り」がでているが)
唯一解り難い点というと、サートリス家が「ジョン」と「ベイヤード」ばかりという所か。
これはどっちのベイヤード?、これはどのジョン?など初めのうちは捉えにくいかも。厄介なことにジョンは全員故人だし。
主人公の若ベイヤードは戦争(一次大戦)に従軍し、弟が戦死、本人は帰国後、半ば自棄ぎみにスピード狂のごとく自動車を走らせ、目的のない生活をしている。
実際の出版は作中年代の10年後の1929年と同年代の作家たちと比べると少し遅いものの、フォークナーにしてからが、「失われた世代」と一般に言われた同世代の空気とは無縁でいられなかったという当たりが興味深い。
これは後年の作品群から読み始めたから特にそう思うのかもしれないが。
もっとも呪いのごとくまとわりつく土地と家というフォークナー的世界はこの時点ですでに全面に出てきており、フォークナーらしさというのもしっかり味わえる。
入門用に最適のような気がするので、白水社も新装版なんかじゃなく、Uブックスでノベル化して入手しやすくすればいいのに。