都筑道夫「都筑道夫の読ホリデイ」

1989年から晩年まで書き続けられたエッセイ集。
ミステリマガジンに連載していたこともあり、メインは翻訳ミステリの書評。時々映画の感想や知人との交遊、家族の話題などもはさまれる。
自身、作家であり翻訳も手がけていたこともあるせいか、日本語表現に関する苦言が多い。

徳川夢聲が戦時中に、「軍靴のひびき」という言葉の入った文章を、ラジオで読むことになった。グンカのひびき、と読んだのでは、軍歌とまちがられかねない。グンクゥと読んでは、地方なまりめく。考えあぐねて、グングツのひびき、と読んだら、聴取者から非難の投書があって困った、と愚痴をこのしていたのを、おぼえている。読むための文章を、声で理解させるのに、昔のひとはそれだけ、気をつかっていてのである。

1995年6月より