女吸血鬼

1959年の本邦最初期の吸血鬼映画であり、女吸血鬼が登場しないことで有名な作品。
中川信夫監督、原作は橘外男「地底の美肉」。この組み合わせでは前年に「亡霊怪猫屋敷」が作成されている。
橘外男は怪談と海外実話物の名手。実話物と言っても実際は実話でも何でも無いのはお約束。内容的には美女が怪物や猿人などに陵辱されるという、いわゆるエログロなものが多い。
この作品も基本的にはその路線。
といっても「地底の美肉」そのものは未読。ただこの作品はその10年ほど前に刊行された同作者の「青白き裸女群像」の焼き直し・・・というか、舞台と設定をちょっといじっただけの同プロットの作品ということらしい。
(青白き〜は既読)
確かに映画そのものが「青白き裸女群像」の翻案ですと言われても、まったく違和感がない。
業病→吸血鬼、フランス→日本と変わったくらいで、行方不明だった人間が恐ろしい話を語る導入部や、問題の怪人が芸術家として生計を立てている点や、美女の剥製、隠れ家が発見される経緯などそっくり同じ。
今やったら結構危険な行為だよな、これ。
ストーリーはとある家のパーティーから。この家では一人娘が婚約しており、婚約者及び友人たちが集まってがやがや騒いでいる。
この婚約者が主人公となる。
そこに十数年以上前に失踪した娘の母親が夢遊病者のような状態で戻ってくる。しかも失踪当時の外見のまま。
数日後、落ち着き意識がはっきりとした彼女の口から、失踪の顛末が語られる。
彼女の一族は天草四郎直径の子孫で、結婚を機に夫と祖先の地に旅行に行く。そこで夫と離れ一人付近を彷徨っている際に一人の画家に出会い、拉致監禁される。
その男は自称天草四郎の家臣で、主筋の姫である勝姫が自害した際にその血を吸った呪いのため、吸血鬼となり現代まで生きているという。そして姫への絶ちがたい思いを子孫である彼女で遂げようというのである。
勝手な話といえばその通りだが、怪談というのは結構、「親の因果が子に報い」的なものが多いのでこれはこれで一つの王道かもしれない。
そんな男+部下のフリークスの下、十数年を過ごした彼女だが、千載一遇のチャンスをものにして脱出に成功、何とか帰ってきたわけである。
その後、再度吸血鬼に浚われた彼女を取り戻すため、娘であるヒロインと主人公が吸血鬼を九州まで追っていき、彼の本拠で対決をすることになる。
普通、吸血鬼というと夜の魔物だが、この作品では微妙に異なる。夜暴れだすのはその通りなのだが、この作品では月光を浴びることでその魔性というか獣性を発揮するのである。
しかも嬉々として、というよりは苦しそう。実際、作中では何とか浴びるのを避けようとしているし。
そう、これはもろオオカミ男なのである。
この辺りの設定やヒロインがいるのに主にひどい目にあうのはその母親であるという微妙なちぐはぐさはやはり、元々原作の元ネタが単なる猟奇物だったからだろうか。
さて、吸血鬼もので重要なのはそのルックスというか雰囲気だが、これがかなりいい。
天知茂、見事である。
普段のクールな感じと月光を浴びて凶暴化した際のギャップとか、個人的にはクリストファー・リーを思い出したよ。
またその脇を固める部下たちもいい味だしている。
一番出番が多いのは小人なのだが、せまい隠し通路からひょっこり現れたり、酒場で大暴れしたり、とにかく動く、動く。
深夜の美術館に忍び込んで徘徊するシーンなどは一種の美しさすら感じた。
他には謎の老女と力士が出てくるのだが、こいつらイマイチ何なのか解らない。
解らないのだが、外見のインパクトだけはある。
一種のタイトル詐欺、微妙なストーリー展開、かっこいいモンスター達。
良くも悪くもユニバーサルホラーの特徴をしっかりと継承している。
あちらが好きな私としては十分楽しめました。