雷見舞

岡本綺堂の「三浦老人昔話」に納められている「雷見舞」。これは雷嫌いの花魁とそれをひいきにする大名の話なのだが、その昔話は次のように始まる。

どこかに迷惑がる人がいますから、店の名だけは堪忍してやりますが、場所は吉原で、花魁の名は諸越とおぼえていて下さい。安政の末年のことで、その諸越のところへ奥州のある大名――と云っても、例の仙台様ではありません。もっと江戸に近いところの大名が通っていたのです。仙台や尾張や、それから高尾をうけ出した榊原などは、むかしから有名になっていますが、まだその外にも廓通いをした大小名は沢山あります。

最初読んだときはスルーしてしまったが、読み返してみて気になったのが、「例の仙台様」という表現。仙台といえば伊達家。東北で最もメジャーな大名だからこういう言い方してるのかとも思ったのだが、何か記憶にひっかかる。伊達の殿様と吉原にまつわる話をなにかで読んだ記憶がある。多分隆慶一郎の小説。
調べてみたら簡単に見つかった。(2代目?)高尾太夫を伊達家の当主が惨殺するという話(事実ではなく俗説らしいが)があったらしい。それは「例の」ってつけるわな。ちなみに上記の文にでてくる「高尾をうけ出した榊原」というのも有名な話らしい。こちらの高尾は7代目とか。
三浦老人昔話が書かれたのは大正時代。このころは↑のような書き方をしただけで読む人は十分解ったのだろうな。
まあ、私が時代小説や江戸文化に無知なだけで今でも解る人は普通にわかるのだろうが。