ポール・アルテ「虎の首」

「凶行のあと、あきれた言い逃れをする犯人は珍しくもないが」とツイスト博士は言った。「今回のケースは度を越している。だってそうだろう。わざわざ自分が犯人だとひと目でわかってしまう状況で人を殺し、そのあと<<魔神>>などという話を持ち出して、無実を訴えるなんて……まったく狂気の沙汰じゃないか。自ら絞首刑を望んでいるとしか思えない」
「頭がおかしいんです」とアーチボルト・ハーストは力ない声で言った。「当世、そんな連中がうようよいます」

現代だと「頭がおかしい振りをしてるんですよ。死刑にならないために」ってな所でしょうか。
いつも平均して面白いんだが、個人的に今回はかなり気に入った。
奇妙な盗難事件、トランクに詰められたバラバラ死体。そして杖の中から現れた魔神による密室殺人といった道具仕立ては相変わらずポイント高いのだが、今回は構成の妙が光った。
それぞれの事件が解決されていく過程や出来事の配置が見事。日付を明示しているのも親切。時系列に並び直して読んでみるのもおもしろいかもしれない。面倒だけど。