梶龍雄「海を見ないで陸を見よう」

現在は絶版のため、図書館で借りて来る。表紙に「江戸川乱歩賞受賞第一作」と書いてある。
本書はその受賞作である「透明な季節」の数年後の話となる。主人公は19歳となっている。一応続編といっても良いのだろうが、共通しているのは主人公のみで、前作を読まなくても一向に問題はない。ただ、主人公の性格が結構重要な意味を持っているので、前作を押さえておくとより説得力を感じる場面はある。
前作は日常から戦争による様々なものが失われていく喪失の物語だったが、今作は対照的に冒頭いきなり主人公は想い人を失ってしまう。
主人公は大学の夏休みに戦争が勃発していらい訪れていない伯母の別荘に誘われる。そこで数年ぶりに出会った幼馴染の姉妹。この手の展開にはお約束であるが、彼女たちは美しく成長していた。そして年の近い妹のほうと親密になっていく。
そんな中、彼女が溺死する。茫然自失になっている主人公に刑事が話しかけて来る。彼女の死は事故死ではないという匿名の電話が入ったのだという。
彼女との思い出に浸っていた主人公は周囲の人間の当時の行動を調べ始める。
事件→回想という流れは前作にもあったが、ノスタルジックというか、失われたものに対する追憶というか、この手の描写はうまい。
これも前作共通だが、人物描写がうまい。後半、ある人物との間に友情が芽生えるあたりなど一種の清涼剤になっている。また、主人公が自分の推理を表にまとめて検討しているあたりの描写も秀逸。
ミステリ色も前作より強く、伏線は結構緻密に張り巡らされている。空間的にも、登場人物の数的にも限られた舞台のため、真相の幾つかにたどりつくのはそう難しくないが、それでも最終章はぐっと引きこまれる。結構な佳作。個人的には前作よりも好きかな。