Deacon Taylor From Spoon River

エドガー・リー・マスターズの「スプーンリバー・アンソロジー」という詩集がある。
架空の町であるスプーンリバーに住む住人たちの人生を描いているのだが、この作品、とてもユニークなことに死者による回想という形式を取っている。
墓場の中から死者たちが自分の生前の出来事を語るのである。
死んでいるのだから誰はばかることなく、自分の見たこと、体験したことを語ることができる。
世間体や周囲の評判を気にして言い出せなかったことも自由に言える(主に性的なこととか)。
いわば死者たちによる告白と暴露集という一面を持っているのである。
中でも個人的に気に入ったのが次の詩

Deacon Taylor

I BELONGED to the church,
And to the party of prohibition;
And the villagers thought I died of eating watermelon.
In truth I had cirrhosis of the liver,
For every noon for thirty years,
I slipped behind the prescription partition
In Trainor’s drug store
And poured a generous drink
From the bottle marked “Spiritus frumenti.”

適当訳

「テイラー助祭

私は教会のために働き、
禁酒法運動にも取りくんできた
だから村のみんなは私がスイカを食べて死んだと思っている
でも本当は肝硬変で死んだのだ
30年間ずっと、昼になると
トレイナー薬局の
処方せん医薬品置き場に忍びこんでは
ウヰスキー」とかかれた瓶から
たっぷりといただいてたからね

内容としては現実にもありそうな話で、敬虔な人物と思われてた人が結構な俗物だったというパターン。
ちなみになんで薬局に酒があるかというと、医療目的での所持は許可されたから。
医者の処方箋を持っていって薬局で酒を手に入れる、というのは禁酒法の有名な抜け道。
当然、大抵は医者もグル。
なお、prescription partitionというのが良くわからなかった。
後で訳本(2009年版)を見る機会があったので確認してみたら、「処方箋を書く仕切り」となっていた。
behindとあるしpartitionだし、仕切りのようなものはありそうだ。ただ、処方箋って薬局が書くかなあ?という別の疑問が出たきたので
何か納得いかず、↑では適当な言葉を入れてごまかした。

最初読んだときは、内容のユーモラスさが気に入った。
中でも死因。何故にスイカ?というのが妙につぼった。
まあ、季節は夏だろうし痛みやすいから食中毒かね。にしてもdied of eating watermelonって結構インパクトある字面だな、などと思っていた。
そんな感じでそのときは、奇抜なものをチョイスしたのかなと程度で思考停止していた。
イカと肝硬変を結びつける要素なんてあるわけないという思い込みも強く作用していたと思う。

が後に、スイカはビール同様利尿作用があることを知った。
水分を大量に含む+利尿作用という組み合わせで脱水症状を起こしやすい食べ物であるという。
肝機能障害で脱水症状が起きるということは知っていたので、これか!とピンと来た。
全く関係ないだろうと思っていた事柄がつながったときの衝撃は結構なものだった。
と同時に一語、一語がっつりと調べさせられた学生時代の講義を思い出させられ、襟を正すような気分にもなった。
(実際にはその当時(20世紀初頭)にスイカの利尿作用や肝機能障害についてどの程度の知識が一般的だったのかを調べる必要まであるのだろうが)

なお、私が読んでいたのは数百円で買ったペーパーバックで注釈も解説もなんも無いやつだった。
ちゃんと注釈つきのやつだとこのあたりも解説してたりするんだろうか?
まあ、私は注を読まないことも多いんであんまり意味なかったかも知れないが。